— ZICK ZACK

塔ノ岳Ⅲ

西の空に光が射す時、雨あがる。

 

またしても雨の塔ノ岳。
一週間前から天気予報は良く無かったが、前日にはなんとか昼前から晴れマークが出るようになったので、ちょっと不安を覚えつつも決行することにした。
当日の朝を迎えると、一向に降り止まない雨にメンバーたちから「今日本当にいくの?」と連絡がいくつも入る。「行くよ。大丈夫、晴れるから」と返事をしつつも、その情報源がまっっっったく当てにならないウェザーニュース社の予報ということには自分で蓋をした。

秦野駅でバスを待っている間も雨は降り続いていた。嫌な予感がみんなの中にくすぶっているいるのだろう、不安、不満なメンバーの顔色を見ては声をかけた「大丈夫、晴れるから」。それは同時に自分に言い聞かせていた。

ヤビツ峠に着くと雨は小雨になっていた。よしこのまま回復していくだろうと思っていたが、そこからまたしても雨が強くなり、木々に囲まれた山道に入っても防ぎきれないほど本降りになってしまった。これだから天気予報は当てにならない。予報ではもう雨があがって、晴れ間が見えても良い時間なのに・・・

レインジャケットを羽織るも身体から吹き出す汗で結局びしょぬれになってしまった。みんなうつむき無言だ。ここで引き返すべきか迷いつつも歩みを進めた。一向に収まる気配のない雨と寒さで、途中の小屋に雨宿りしつつちょっと休憩をしていると、奇跡的に手持ちのソフトバンクiPhoneに電波が入った。すかさずアメッシュにアクセスする。すると現在地の数キロ西側では雨が上がっているようだった。すぐにこの天啓をみんなに伝えた。「もう雨はあがるよ!」と。しかしすでに嘘つき少年のレッテルを押されているのか、みんなは苦笑いを浮かべて返すだけだった。
「ちがうんだ、みんな!聞いてくれ、今度は本当なんだ!これはクソみたいな天気予報なんかじゃなく、リアルタイムの雨量計データが示す確かな未来なんだ!信じてくれ!」と、心の中ではこの幸せの兆しを大声で叫びたかった。

そしてまもなく本当に雨はあがった。いや、ただ雨が止んだだけではなく、本当に素敵で素晴らしい景色が目の前に現れた。うっすらと隣の山の影が見えてきたかと思うと、強い風に流されてみるみる視界が開けた。そこには連なる丹沢の稜線とその下に豊かに揺蕩う雲海が広がっていた。その一連のダイナミックな世界の改変作業はものの数分のうちに行われた。世界を6日間で創った神の御業の片鱗を目撃し、みんな歩みを止めてカメラを手にその光景に囚われていた。

頂上に付く頃には太陽の光が眩しく山々を照らしていた。みんなの顔にも笑顔が戻る。そして僕は自慢げに言う「ね?だから晴れるって言ったでしょ!」

雨の山行にいいことはほとんど無いと思うけど、僅かにある良い点をあげるとすれば、雨の時にしかみることの出来ない、普段は埋もれてしまうような動植物の姿だと思う。暗く、色の無い世界でより鮮やかに咲く花々や生き物の痕跡。逆に雨の日を狙って山に行くことは難しいのだから、ここはひとつ雨でよかったと思うことにしよう。